鄭文宝 Zheng Wen bao  (五代〜北宋)  

 鄭文宝(ていぶんぽう)(952〜1013)、字は仲賢(ちゅうけん)、寧化(福建省)の人。官は兵部侍郎に至る。本業は軍事家だが、詩は軽快柔和で、晩唐五代の詩風の影響を強く受けている。文集があったが、すでに失なわれた。


 
 柳枝詞  柳枝詞(りゅうしし)     

亭亭画舸繋春潭  亭亭(ていてい)たる画舸(がか) 春潭(しゅんたん)(つな)がれ
直到行人酒半酣  (ただ)ちに 行人(こうじん) 酒 (なか)(たけなわ)なるに至る
不管煙波与風雨  管せず 煙波(えんぱ)風雨(ふうう)とを
載将離恨過江南  離恨(りこん)載将()せて 江南(こうなん)を過ぎんとす

〔形式〕七言絶句  〔脚韻〕潭、酣、南(下平声・覃韻)

○柳枝詞 楽府詩における曲名の一つ。言わば「わかれうた」。古代中国には旅立つ人にヤナギの枝を折って手向ける習慣があり、それゆえヤナギの枝は別れのシンボルとして詩にうたわれる。
○亭亭 高くそびえるさま。ここでは、船室が高くそびえているさま。
○画舸 はなやかな装飾を施した船。色あざやかな船。「舸」は大型の船。
○繋 船をつなぎとめる。
○春潭 春の川岸。「潭」は、水の深い川岸。
○直到 ずっと〜になるまで。
○行人 旅人。これから旅立つ人。
○酒半酣 酒を飲んで、ほろ酔い気分になる。
○不管 かわまない。関知しない。
○煙波 もやのかかる水面。
○載将 船に載せて。「載」は、荷物を載せる。「将」は、助字。
○離恨 別れの無念さ。

 《柳の枝のうたの歌詞》

高くそびえる色あざやかな船が、春の川の岸辺につながれている。
ずっと、旅立つ人が送別の酒宴でほろ酔い気分になるまで。
行く手にもやの立ち込める水面があろうと、はたまた雨や嵐があろうとお構いなしに、
船は別れの無念さをいっぱいに載せ、はるか江南へと旅立って行く。